プロ競輪選手として26年間活躍されていた丸山繁一氏。優勝5回、1着233回と素晴らしい成績を残している。また現役時代にUCIマスターズ世界選手権大会スプリントレースで3度の優勝を果たすなど、数々のタイトルを獲得した。引退後は、サイクリングウェアなどを扱う会社で営業マンをした後、サイクルショップのオーナーとして、現在はフルオーダーバイクの受注やマンツーマンコーチングによる後進の育成を行っている。

今回は、そんな元プロ競輪選手が手がけるフルオーダーメイドの自転車とはどういったものか。またその魅力について語っていただいた。フルオーダーで自転車を組み立てることの面白さや、オーダーするときのコツ、丸山氏のこだわりポイントなどを伺い、一人一人に合わせた、こだわりの一台に仕上げる魅力を教えていただいた。

「僕は結局、自転車が好きなんでしょうね。それとよく後輩に言われるんですけど、僕の場合はいろんなことがうまく噛み合ってここまで来ていると思います。だからこういうお店もできたし、世界チャンピオンになって連覇した時も、大変でしたけど運とタイミングが合ってたまたま勝てたと思います。もちろんやるからには狙いにはいってましたけどね。」

ブルーが映えるサイクルジャージはビチクレッタ・ディ・マルのオリジナル

――最初に自転車に出会ったきっかけを教えてください。

小学生の頃、父親に自転車を買ってもらって一緒にサイクリングに出かけたのが最初です。それから、高校2年生の頃に僕の家の近くに自転車好きのおじさんがいたんですよ。その人が当時コーチのような感じでよく面倒を見てくれて、それが自転車を好きになった一番のきっかけです。

――その頃から、本格的に走りに行かれていたんですか?

中野浩一さんの走りを見て自転車競技を知り、本格的に始めました。通っていた高校に自転車部がなかったので、2年生の時、担任の先生に頼み込んで自転車部を作ってもらい、1年間だけ同好会みたいな感じで活動しました。そんな環境でしたが、一生懸命練習してインターハイや国体には出られるようになったんですよ。

店内には実業団チームの時の写真も飾られている

高校卒業後に丸山氏はそのコーチの薦めもあり、スギノテクノ(現:スギノエンジニアリング)の実業団チームに所属し3シーズン、アマチュアとして活躍された。

――当時のお話を聞かせてください。

当時は国内の大会に参加していました。アマチュアでしたが、頑張って何かしらタイトルは獲りたいなっていう思いで走っていました。でもその当時はタイトルに縁がなく、獲ることはできませんでした。1位になっても失格したりして、2位までが最高でしたね。

――そこから競輪選手になったきっかけは何でしたか?

実業団チームに入る時に父から「3年間は好きなことをやってみろ。3年目に何もできなかったら次のこと考えろ」って言われていました。実業団に入って3年目になって、次のステップを考えなきゃいけないタイミングが来たときに、自分の思っていたレベルまで行けなかったという思いがありました。それで競輪学校(現:競輪養成所)の試験を受けて選手になるか、キッパリ辞めて家業を継ぐかっていう選択肢の中で、その時はまだちょっと自転車に未練があったので、チームを辞めて、競輪学校の試験を受けました。

競輪選手時代

それからは26年間、競輪に打ち込む生活を送っていた。選手時代には、200回以上の1着を勝ち取り、その間に挑戦したUCIマスターズ世界選手権大会スプリントレースでは3度の優勝経験を持つ。

――競輪選手時代に印象に残っている出来事を教えてください。

全国、いろいろなところに行きました。お客さんが多いところで走って、成績が良かったら応援もありますし、悪かったら罵声もある。プロスポーツ選手ならではの体験は、やっぱり今に活きているなっていうのはありますね。お金の大切さっていうのもよく分かりました。

――それはどういった意味で?

お客さんは自分に賭けてくれてるので、やっぱり勝っても負けても期待に添えるようにしないと申し訳ないなっていうのはありましたね。最初はそんなこと考えなかったんですけど、途中から人気を背負ってるなとか、人気がない時には、人気の選手を負かしたろかなとか、そういうことは思って走ったりはしてましたね。

店内にはマスターズ優勝の際のメダルが飾られている

――現役選手中にマスターズも優勝されていますよね?

競輪選手の先輩がマスターズ大会に出ていて、一緒に出ないかって誘われたのがきっかけです。別の世界を見たら競輪を続けるのにも、また違う目線で見れるかなって思いました。

――実際に行ってみてどうでしたか?

やっぱり参加している皆さん自転車が好きなんだなって。マスターズに参加する数年前に競輪選手でありながら、自転車の本場、ヨーロッパへロードレースに参戦したこともあるんですけど、現地の方々の熱気に圧倒されました。ヨーロッパで自転車競技は国技のようなものなので、みんなが自転車に対してすごく情熱を持ってますし、意識も高い。スター選手は子供から大人までみんなの憧れでした。

――その後、マスターズで3回優勝というのはかなりすごいですよね。

皆さんにはよくそう言っていただくんですけどね。僕はたまたま運やタイミングがあったのかなと思います。それがうまく重なったのがその年やったんかなと。仲のいい先輩にいろいろ情報を教えてもらったり、友人の知人が通訳してくれたり、いろんなことがうまく重なったタイミングでした。自分ではできない事を多くの方のサポートで補う事ができました。1人では絶対優勝できなかったと思います。

鮮やかな青い看板が印象的な店外

現役を引退後は、営業マンを経て、サイクルショップのオーナーとなった。元プロ選手が作るフルオーダーバイクとはどういったものなのか。丸山氏のこだわりや、自転車に対する思いを教えていただいた。

――お店を始められたきっかけを教えてください。

競輪選手やって、サラリーマンやって、やっぱりサラリーマンは向いてないなっていうのが一つの要因やったんしょうね。あとは、もう一度チャレンジできる事があったらしたいなっていう想いがありました。その時にたまたま周りの助言があったり、手助けしてくださる方もいて、お店をやることにしました。

――お店はフルオーダーメイドバイクを扱っていますが、それは当初から計画していたことなんですか?

そこまで深く考えていたわけじゃなかったんです。ただ競輪選手としてクロモリフレームのバイクを30年近く乗っていたので、得意というか、いろいろな経験を持っていて、お客さまがオーダーするときに話しをしている中で、自分の知識や経験が活かせるんだなと感じたので、少しずつずつ力を入れ始めました。

――どういったお客さんが多いですか?

本格的な自転車に初めて乗るけど、何を買っていいか分からない方もいます。ホームページを見て、オーダーができるのを知って、でも値段も高いからちゃんと相談できるところで買いたいって言う方が多いですね。

――実際にオーダーするときはどういったふうにするんですか?

例えば、長い時間乗るので乗ってても疲れにくい自転車がいいとか、ヒルクライムしたいとか、背格好が小さい大きいとか、いろんな要望があると思うんですよね。ロードばっかり乗りたいとか、将来プロになりたいっていう人もいますし。そういうのを、店の中で話をして、何種類かあるメーカーからその人の要望に応じたものを勧めています。

店内は綺麗に整理され自転車店とは思えない雰囲気。実際に美容院や喫茶店と勘違いされることも多いそうだ

――プロを目指すような方に合うものとなると、要望も高いと思いますが、プレッシャーはありますか?

ありますよ。自分のものではない、お客さまのものなのでどうしても妥協はできないです。自分のものでしたら、まあこんなもんでいいだろうっていうのが、やっぱりお客さまのものなんで。完全にはできなくても、要望されたものにできるだけ近いものにはしたいなと思っています。

出来上がってきた時には、感動してくださって、良かったっていう言葉をいただけることが多いです。でもお客さまの方が豊富な知識を持ってらっしゃる事が多々あって、僕がお客さまから学ぶことの方が多いですよ。

――オーダーメイドするにはどれくらいの時間をかけるんですか?

フレーム自体は3〜4ヶ月くらいかかります。フレーム専門のビルダーさんに製図してもらいます。その間にも身長だったり、年齢だったり、乗り方の好みだとか、お客さまともビルダーさんとも意見を聞いて、お互いが納得してから作ってもらいます。自分がプロだった時は、半分くらいビルダーさんに任せっきりだったんですけどね(笑)。

――じゃあ、信頼関係のあるフレームメーカーがあるんですね。

そうですね。僕のところで扱っている自転車はほどんとが信頼関係で出来ているような感じです。微妙な調整もそれぞれに合わせてしてくれるので。例えば、お客さんが女性であれば、女性の自転車をたくさん作っているビルダーさんが知識がたくさんあると思うんですね。プロ(競輪)向けのメーカーであれば、プロがどういう乗り方をしているかのデータをたくさん持ってると思いますし。僕はお客さまに合わせてこっちのメーカーの方がいいなとか、あっちのメーカーの方がいいなとか考えます。お客さまは自分だけのものを作りたいって人が多いので、なるべく相手のニーズに応えられるようにはしています。

――デザイン的な部分もカスタムできるんですか?

カラーとかデザインに関しては、お客さんに選んでもらいます。

世界に一つだけの車体が作成可能

――最近あった難しいオーダーを教えてください。

すごく昔の自転車を作りたいっていう方はいました。1960年代、東京オリンピックのあとくらいの自転車を作れないかって。でもその頃の自転車って今、自分が乗っているような自転車とは違うので、お客さまにいろいろ教えてもらいながら制作中です。たくさん勉強させてもらっています。

それから古い自転車をオーバーホールしてほしいっていう依頼もありました。その時は、店を閉めてから自転車をじっとみながら、パーツ構成だとかを観察しました。でも分からないことがあれば、自分で悩まずに経験豊かな諸先輩に聞いたりします。悩んで失敗するよりも、聞いて怒られアドバイスしてもらうほうが身になります。

先輩から預かっているという貴重なサイクルジャージ

さまざまな要望に応えながら、丸山氏は妥協のない自転車作りを行なっている。そこには、プロ選手としての経験や、自転車が好きだという思いがあった。

――フルオーダーバイクを扱うのは何故ですか?

自分に合ったものが作れるっていうのが一番だと思うんです。例えば、カーボンバイクって僕も世界選手権とかでLOOKのカーボンに乗ってましたけど、すごくいいんですよ。その反面アレンジが難しい。でもクロモリは、自分でアレンジして世界に一つだけの自転車が作れるっていうのが、一番面白いところだと思います。カーボンは形が決まっていて、そういうことができないですからね。クロモリはパイプを切って作っていくので、背格好に応じた無理のない自転車を作れます。もちろん妥協しなくちゃいけない部分もあるんですけど、それなりになんとか工夫して作り上げていくのが、クロモリバイクの面白いところだとは思ってます。

店内にはさまざまなメーカーの車体が並ぶ

――この中でおすすめの車体を教えてください。

そうですね、要望に応じて色々あるんですけど、ロードレースにすごく強くて関西ではないっていうのがRAVANELLO。ブルーのフレームは、競輪選手が使えるLEVANT。競輪選手が使うためにはNJSに認可してもらわないといけないんですよ。3番目は、僕の後輩の元競輪選手が作っているフレームMIZUSHIMAです。4番目はパナソニックですね。あれは僕の自転車なので同じものは出来ないんですけど、クロモリのバイクで大手メーカーで生産するので信用があります。お客さまによって予算もあると思うので、メーカーはそれに応じて提案します。

例えば、ロードバイクで軽いのが欲しいって言われればRAVANELLOを勧めたり、プロを目指す人には、LEVANTとかパナソニック。競輪選手の経験値を活かしたより速く、よりいいものってなればMIZUSHIMAを推薦しています。

RAVANELLOは東京の練馬区で作っています。オリンピックに出た選手もたくさんいますし、いいビルダーさんですよ。こういうと怒られるんですけど、オヤジみたいに信頼できます。

――お客さんにとっては、出来上がるまでも楽しみですよね。

そうですよね。フレームを選んでもらったら、部品はある程度セットになったものがあるので、あとは車体のカラーを決めてもらいます。まずメインのフレームをどういうカラーで作りたいかを進めていきます。どんな色合いがいいか、グラデーションはつけたいとか、肉抜きしたいとか、そういう要望もできるだけ応えられるようにしてます。それから部品のカラー、サドルの色、バーテープが何色がいいとか。

――じゃあ、選べないところはほぼないという感じですね。

そうですね。クロモリフレームの魅力はやっぱり自分だけの自転車にできるっていうところなので。選手時代の30年近くクロモリばっかり乗ってて、一時期、練習ではカーボンを乗ってたこともあったんです。でもやっぱりクロモリの柔らかいイメージが好きで、それをお客さまのイメージ通りに加工してもらって気に入ってもらえればなっていうのがあります。

丸山氏の現役引退時

丸山氏は店舗運営の傍ら、丸山塾というトレーニング塾を行っている。初心者からプロ選手まで幅広くコーチングする丸山塾についても話を伺った。

――丸山塾ではどういったことを教えているんですか?

まずは自転車の基本、交通ルールを守るっていうところから始まります。それからタイヤ交換とか車輪の外し方とか、1人で対応できるように最初に時間を取ってもらってアドバイスします。そのあとは塾っていうように、自転車をより快適に、より早く乗るなど、レベルアップのために必要なトレーニングをしたり。その人の目的に応じたものができるようにしています。

――マンツーマンでされているんですよね。

こちらもオーダーメイドに近いような教え方なので、たくさん同時には出来ないです。本当に一対一でやってます。

――どれくらいの期間、どういった内容で教えるんですか?

1回1時間くらいで、内容はその人に応じてのものです。自転車を安全に乗りたいとか、首や腰が痛いからどう改善したらいいかとか、早く走れるようになりたいなど、目的はほんとに幅広いですよ。プロの選手も来るのでフォームだとかペダリングの仕方を見たりもしますよ。

今、時代が変わってきていて、トレーニング方法とかも変わってきています。私のコーチングは、基礎的なこと指導して底力を身に着けることがメインです。でも自分がやってきた基礎的な部分は、今も昔もほとんど変わってないんです。競輪選手の後輩たちに今のトレーニング方法をアドバイスしてもらいながら、自分なりにアレンジしてお客さまにお伝えしてます。ただ今はコロナの影響もあって、ちょっとやめてるんですけどね。

――今後の目標を教えてください。

サイクリングの企画をしたいなっていう思いがあって、サイクルショップを始めたところもあるので、早くそういったことができるようになりたいですね。あとは業界の裾野を広げて、自転車の輪を広げたいなって思ってます。小さいところから大きくするのが好きです。そして、プロは引退しましたけど、トレーニングの研究も兼ねて、今後も楽しみながらアマチュアのレースに参加していきたいですね。

――サイクリングのイベントはどういったものをイメージしているんですか?

競技性っていうよりもどこかに行って美味しいものを食べたりとか、スピードとは関係なく、みんなでわいわいがやがや楽しめるようなイベントをしたいです。僕が元選手なので、速く走れるイベントも求められるんですけど、そういうのはまだやらないっていってます。ゆっくりのんびり走る企画をするから、そういうので良ければ来てくださいって。

――今の思いをお聞かせください。

僕は、本当に人に恵まれてました。マスターズで優勝した時も、そんなに苦労せずにいろんなことが上手くいったなとか、今のこの仕事もやりたいなと思ったときに出来たりとか。終わってから気づくことが多いですけどね。本当に運があったと思うし、人に恵まれてたからこそだと思います。

 

元プロ選手の経験を活かし、熱い思いで自転車作りに取り組む丸山氏。安全への取り組みなど自転車業界全体を見渡した活動が印象的だった。こだわりのフルオーダーバイクを検討の際には、ぜひ相談してみて欲しい。

BICICLETTA DI MARU ビチクレッタ・ディ・マル

〒664-0898 兵庫県伊丹市千僧4丁目247-3

TEL:072-744-1500

営業時間:11:00-19:30(木曜日は13:00から)

定休日:毎週水曜日