みなさんは何時間、寝ずに自転車を漕ぎ続けることができるだろうか?

落合佑介氏はアマチュアのサイクリストながらブルベの最高峰、PBPでアジア人トップでゴールするなど、そのライドスタイルや記録から伝説的な人物である。
PBPとは、フランスのパリからブレストまで約1,200kmの距離を往復するパリ・ブレスト・パリと呼ばれるサイクリングイベントだ。2019年開催の大会で落合氏がアジア人トップでゴールした際には、48時間28分の間、一切睡眠を取らずにゴールした。(※長距離サイクリング中に必要な睡眠量や休憩時間は個人差があります。予めご理解ください。)

「フラットに保つ方が安定して走行ができて、長距離が走れるっていう考え方です」

撮影:下城英悟

長距離を寝ずに走ることで最短記録を出す。理論の筋は通っているが常人には難しいスタイルだ。このスタイルで走る理由とは?落合氏に話を伺った。

――もともと自転車に興味があったんですか?

ロード自体は社会人になるまで乗ったことがなくて、通勤のために購入しました。それも会社の先輩から「30km通勤するならこっちの方がいいぞ」って勧められて買ったのがきっかけです。
もともと体を動かすのは好きで、学生の頃にやっていたソフトテニスは近畿大会ぐらいまでは行けていました。卒業して何か新しくスポーツを始めたいなと思っていたのでちょうど良いきっかけでした。

――それからのめり込んでいったんですか?

そうですね。何かに集中し出すとそればかりで、すごくのめり込むタイプで。小学生の頃はサッカー、それからソフトテニスを初めて、ずっとそればっかりっていう感じなんですよ。それが今、自転車になって、ずっと続いています。

――長距離が好きなんですか?

チャレンジすることが好きで、ブルベを始めたときに、200km、300km、400km、600kmとクリアしていって、1,000kmまで走り切ることができました。

――PBPに出られたきっかけを教えてください。

鈴鹿の「8時間耐久ロードレース」や「さんいん1300」(大阪から下関まで1,300kmを走るブルベ)、それ以外のブルベにも参加して、自然と次の段階はフランスの大会にってなりました。でもお金もかかるし、仕事も休みを取らないといけないんで、行けるんだったら行ってみたいという気持ちでした。2週間近く休みを取らないといけないので。それである時、職場に相談したら意外にもOKをもらえて、それなら行こうかなと。

PBP 2019年大会 出場時

――その後、PBPには何度かの参加でアジア人トップになったんですよね?

そうですね。3回目でアジア人トップでゴールすることができました。1回目、2回目の経験がすごく大きいんです。5,000人くらい参加する大会なので、チェックポイントも広くて、チェックに移動したり、トイレに行ったり、簡単に30分くらいロスしてしまう状況で。それが3回目には全部わかっていたのでタイムが縮まってきた感じですね。
※PBPを含めブルベは決められた時間のなかで長距離を走るサイクリングであり、レースではありません。

――それ以外に記録が出せたポイントはありますか?

眠気がなかったことですね。PBPでは睡眠をなくしています。2回目の時は10分x3を3回寝たんですが、3回目に関しては、全く寝ずに走ることができました。ただ、PBPに限らずブルベで最も大切なことは、交通ルールを守り、安全に走ることです。早く走ることでも、ましてや睡眠を取らずに走ることが目的ではないですからね。安全ということは、常に意識しています。

48時間28分の間、全く寝ずに1,200kmを走り続けた

――アジア人トップでゴールした時は、気持ちが乗ってるなという感じはありましたか?

逆に乗っているとかではなくて、僕はフラットに保つ方が安定して走行ができて長距離が走れるっていう考え方です。テンションを上げて、波があると後でだんだん疲れてくるので、調子がいいっていうより、いつもの状態だなって思う方が記録が伸びたりするんです。

――記録が出たときのお気持ちを教えてください。

気持ちをずっとフラットに持ってきているので、気分が「うわぁ」ってなるかっていえば、あんまりならなかったです。ちょっと嬉しいかなぐらいで。それにその時に、アジア人で1位なんて全然、分からなくて、20位に入ってることも分からないんですよね。ただ単に自分が48時間ぐらいでゴールして、今までの記録が、塗り替えられて、よっしゃぐらいのところでした。あとは食堂に誰も並んでなくてご飯が空いてるなぁくらいですかね(笑)。
その後にじわじわといろんなことが分かってきて、周りからも反響があって記録が出て、やっと、すごかったんだなっていうのを実感しました。

この時、アジア人トップでのゴールを飾った

――睡眠を取らずに走るというスタイルは、どう確立されたんですか?

速く走るのではなく、速くたどり着くことを意識しています。そのためにはどうしたらいいか考えた時に、私は速度を出すのは限界があるので時間を削ることを考えました。無駄かなと思っていたトイレとか、水をボトルに補給するタイミングとか。それを極限まで削っていった結果がPBPかなと思います。

――トイレも無駄というのがすごいですね。

PBPはチェックポイントのロスも大きいですからね。そこでどう動いたら早く行けるかとか、ブルベではコンビニでどう動いたら効率がいいかとかをどんどん追求して考えていますね。

――一睡もせずにブルベやロングライドを走るのは改めてすごいなと思いますが、苦しい時もあるんですか?

そうですね。ただ眠らずに走るのは、あくまで僕なりの走り方ですから、他の方へおすすめはしません。それに単に眠らずにといっても、ペースのコントロールや補給を適切に行い、体への負荷がかからないようにすることで、睡眠への影響がでないようにしています。あと眠気が強いときは、さすがに寝るようにしています。

――ブルベに参加するときは実際どれくらい寝ないんですか?

一晩目は全く寝ないですね。二晩目の夜に10〜15分くらい寝るかなって考えます。36〜40時間くらいは起き続けです。

――睡眠のスケジュールは参加前に大体決めているんですか?

寝るっていうのは基本、考えずにスタートします。出場しているブルベが600〜1,000kmくらいの大会が多くて、600kmは24時間前後で走ります。1,000kmも45〜50時間くらいで走れるので寝なくても大丈夫かなと思います。

――一番長い時でどれくらい眠らずに走り続けたんですか?

今年は岡山の1,200kmですね。大体60時間くらい全く寝てないです。

――普段の生活でも寝てないんですか。

普段の生活では普通に寝てます(笑)。寝ないトレーニングとかをしているわけではないです。

日本で行われる2,000〜3,800kmを巡るウルトラロングライドイベント、TJO(ツアー・ジャパニーズ・オデッセイ)にも参加。撮影:下城英悟
ロングライドには「SIDI(シディ)」のサイクリングシューズを長年愛用している。

もともと睡眠時間が短いわけではなく、早く走るために寝ないというライドスタイルに行き着いた落合氏。さらには今後の目標として、日本縦断のギネス記録達成と、アメリカ横断レースRAAMへの出場を目標としている。RAAMは、「Race Across AMerica」の単語の先頭を並べたもので、ツール・ド・フランスよりも長い4850kmをツールよりも短い12日と21時間以内に完走しないといけない、世界で最も過酷な自転車耐久レースとして有名なアメリカ横断レースだ。RAAMには2021年の参加を目標としてきたが、新型コロナウイルスの影響により延期した。現在は、RAAMの予選的な立ち位置にあるRAWへの参加を予定している。

――なぜRAWに参加するんですか?

RAWは、RAAMと同じコースの一部約1,500kmを走るレースで、そのコースを走ってみたい気持ちがすごくあります。環境が全然、違うんですよね。48℃くらいになる大陸の砂漠を走ったりしますし。RAAMに参加するのにも、その環境を走った経験がいるなと思っています。

――日本縦断のギネス記録にもチャレンジされるんですよね?

はい。これはもともとRAAMの話があってのチャレンジというところも大きいです。コロナの影響で延期にはしましたが、今年の夏に予定していたのも暑い環境で走りたいなと思ってのことです。でも縦断に興味がなかったというわけでもなくて、公式な記録には認められないんですけど、縦断を走り切ったことはあるんです。せっかくなので、自分の記録は残したいなという気持ちでチャレンジすることにしました。

初めて国内で行われたRAAMの予選会「RAA(Ride Around Aomori)」へは2020年に参加。

落合氏のRAAMチャレンジに向けて、サポートするチーム体制も整っている。「RANDONNEUR PLUS PROJECT」(以下、RPP)と題されたプロジェクトは、落合氏のRAAM出場と、3位以内でゴールし表彰台に日の丸を掲げることを目標にサポート活動を行なっている。日本縦断のギネス記録チャレンジでも、認定のためのビデオ記録や証明書の取得などを全国のメンバーが地域ごとにリレー形式で行う予定だ。今回のサポートメンバーは約20名。チャレンジのオンライン配信も行い、記録達成を盛り上げ、応援する。

――日本縦断を行うにあたっての目標を教えてください。

このチャレンジ自体はギネスの記録が一番ですので、まずはそれを第一に考えてやっていきたいなと思っています。サポートしていただく方もたくさんいて、実は僕はあんまり面識がない方もいるんですけど、そういう繋がりは重要だと思っていて。直接はなかなかお話しできないですけど、しっかりと走っているところを見ていただいたいとは思います。

――日本縦断、そしてRAAM出場にあたってご自身で課題だと思うことを教えてください。

課題だらけかな。自分の体のことをまだ分かりきっていないっていうか、5,000km走ったら、どんな影響があるかみたいなことがまだ全然見えてない。今までの最高が3,800kmくらいで、それ以降がどうなるのか怖いです。なので、本当は走っておきたいなって思うんですけど、なかなか長期間の休みが取れず走れない。その環境はもどかしいかなって思いますね。

――今後の目標を教えてください。

今の段階ではまず第一に日本縦断があるので、それしか考えていないです。来年のRAW、それ以降のRAAMはコロナ禍の影響もあってどうなるか分からない部分もありますが、RPPの目標としてはRAAM出場の先の表彰台なので、そこを狙っていきたいです。それは僕一人の力ではどうしようもなくて、サポートしてくれるチームの力もあって、僕自身もしっかりと走れて、2つが揃って達成できると思っています。

■落合佑介氏のRAAM参戦サポートプロジェクト
オフィシャルサイト:RANDONNEUR PLUS PROJECT
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