100年以上の歴史を持つブルベ。世界各国で200km以上の長距離を走るイベントが開催されている。中でもフランスで行われるPBP(パリ・ブレスト・パリ)は1,200km以上の距離を走り、1891年から続く世界最古の自転車イベントだ。他者からのサポートに頼らず、準備からトラブル対処までを自分自身で行い、走り切ることを基本ルールとしている。だが時には参加者同士がお互いに助け合って完走を目指すこともある。ブルベは、自己責任で協力し合う大人の遊びだ。

ブルベを主催する団体は日本国内にもいくつかある。その中から関西を拠点として18年の歴史を持つ、オダックス近畿の片山氏と森脇氏にその魅力を伺った。

「参加者がブルベに求めるものってみんな異なっていて、旅行的な感覚で走りたい人もいれば、めちゃくちゃきつくて長いコースを走りたいっていう変わった人もいます(笑)。」

――ブルベに参加されたきっかけを教えてください。

学生時代から運動が好きだったんですが、社会人になってから運動しなくなって、めちゃくちゃ太ったんです。それで最初は折りたたみ自転車で観光地を巡っていましたが、そのうちに自然の中を長距離走るのが楽しくなっていきました。その頃に知り合いからブルベという600kmや1,200km走るイベントがあるっていう話を聞いて、ちょっと力試しで出てみようかなと思ったのがきっかけです。

――片山さんはコースも引いているんですか?

そうですね。最初はブルベの参加者でした。私は山を走るのが大好きだったので、険しい山岳コースのブルベによく参加していました。そのうちにオダックス近畿を主催している方と知り合って、自分でも主催をしてみたくなり、正式なメンバーに加えてもらいました。

いろんな道を走り込んでいくうちに、このルートでブルベをやったら絶対に面白いなとか、イメージが湧いてくるんですよね。関西や西日本の道に関しては、すごくマイナーな林道から未舗装路まで走り込んでいますので、イメージが湧いたらすぐにコース作成に取りかかってしまいます。

――どんなコースを作っていますか?

風光明媚な観光地を巡るコースと、険しさの先に絶景が待ち受けている山岳の物凄くキツいコースの2種類を用意して、それを同日開催でやっているのが私のシリーズの特徴です。

参加者がブルベに求めるものって100人いたら100通りなんですよね。だから、なるべくみんなが走りたいって思ってもらえるコース作りを目指してます。ブルベを旅行的なイメージで走りたい人もいれば、とにかく辛い思いをするのが好きな変わった人もいます(笑)。なので、観光地を走りやすい道で繋いで楽しく走れるコースもあれば、とにかくめちゃくちゃキツいけど達成感があるコースとか、いろいろ工夫してます。

――コースにコンセプトがあるんですね。

そうです。そのキツいコースは200kmから600kmまでステージ制になっていて、ボルトガル語で総合格闘技を意味する「VALE TUDO(バーリトゥード)」っていうサブタイトルを付けてます。最大斜度25%を超える激坂が何度も登場したり、未舗装路や苔とか石が散乱した林道を走ったりとか。

――未舗装路もあるんですね。

今、ロードバイクでもオールロード的なコンセプトのものが一つのトレンドだったりします。太いタイヤでディスクブレーキ、剛性もあって振動吸収性もいいみたいなフレームが出てきているので、最先端の機材でも走りごたえがあるようなコースを作ることは意識してます。

――ロードメーカーでもグラベルロードに対応したものも出てますよね。

そうですね。ただ600kmになると、その中の未舗装路の割合ってどうしても限られるので、オンロードをしっかり走れて、悪路も大丈夫というようなセッティングの方が走りやすいかなと思います。

各メーカーからグラベルロードバイクが発売されている。写真はイタリアのブランド「COLNAGO(コルナゴ)」のG3-X

――コースは事前に確認して装備を決めた方がいいですか?

攻略法はそれぞれの参加者に考えてもらいたいと思います。僕はリムブレーキのアルミロードバイクに25Cのタイヤをはめて未舗装路を走っているので、僕が行けるなら他の人もいけるかなと思います(笑)。

――それは流石に怖くないですか?滑りそうな気が、、、。

タイヤの工夫は必要かなと思います。例えば、僕はクラシックレース用のタフで悪路も走破できるようなタイヤを使っていますね。チャレンジならルーベでないととか。あとはグランツールなんか見てて思うのが、山頂がゴールってすごくかっこいいじゃないですか。長距離サイクリストでもそういう気分が味わえたら喜んでもらえると思うので、ゴールを六甲山頂の海抜900m付近に設定し、ラスト20kmで累積1,000m上るようなコースもあります。そこからゴール受付まで20kmくらい下ってもらいます。ゴールしてからの距離が長いので、ちょっとバカっぽい展開ですが、そういう要素も含めて参加者と盛り上がれる工夫をしています。

各メーカーから未舗装路に対応したタイヤが発売されている。 photo : challenge 「PARIS-ROUBAIX」

――コースは自由に設定しているんですか?

基本的には自分がやりたいコースを作っています。もちろんなんでもOKというわけじゃなくて、レギュレーションは存在しています。例えば、PC(point de Control)とPC間は最短距離になっているというのがルールですので、コンビニをPCに設定してレシートを取得してもらったり、特定の指定したスポットで写真を撮ってもらったりなどしてもらってます。

――関西で開催することの面白さはなんですか?

関西は全国的に有名な山が少ないんですが、歴史や文化があるのが特徴だと思っています。地元の人間すら知らないようなエピソードのある面白い道っていくらでもあって、それをテーマやストーリー性を大切にしながら、うまく繋ぎ合わせていきます。そういうコース作りを工夫すれば有名な道がなくても、知らない道を走った驚きとか発見を参加者にしてもらえて楽しんでもらえると思ってます。

――県外からもたくさん参加されるんですか?

近畿圏外からもたくさん来られますよ。全国から来られるので面白い道を開拓して、それを特定のコンセプトに落とし込んで、いかに満足してもらえるルートを作れるかが腕の見せ所ですね。もちろんコースを引くからには、それを走りこなせるだけの力がいるので、暇さえあれば自転車に乗っています。

深夜3時。多くの人がスタート地点に集まって説明を聞いていた。

――参加されるメンバーはどんな方がいらっしゃいますか?

20歳以上の制限はありますが、年齢はバラバラですね。僕はブルベは究極の無差別級の自転車の遊びと思っていて、男性、女性はもちろん、体型の細い人からゴツい人、大学生から80代の方まで様々です。参加される方もバラバラなんで、楽しみ方もそれぞれですが、ゴールを目指して走るというところはみんな共通です。だからこそみんなと楽しめるんだと思います。

――今計画されているコースはありますか?

現在、オダックス近畿では、【紀伊山地】、【紀伊山地リバース】、【西日本】、【京都】の4つSR600を主催しています。今回、「二つの四国」をテーマにした【剣】と【カルスト】という二つの新コースを準備しています。半島や島のコースの王道的な楽しみ方は外周を走ることだと思いますが、足を一歩踏み込んだ内陸部にこそ、本当の面白さが存在すると思っています。

――面白そうな企画ですね。

特に四国の場合、内陸部は急峻な四国山地があるのはもちろんですが、山岳信仰の山々、山間の村々と棚田、太古から脈々と流れ続け人々の生活を支える大河など、そこには自然と人が長年にわたって積み重ねてきた様々なエピソードが存在します。過去、オダックス近畿では四国1周の1000キロブルべを何度か開催してきましたが、今回は二つのSR600、合計1200キロにも及ぶルートを通じて、違った角度から四国の魅力を徹底的に掘り下げたコースにしています。

※SR600(Super Randonnées)とは600キロ、累積累積標高10000m以上の山岳ルートで、ランドヌール部門(制限時間:60時間)とツーリスト部門(連続した複数日、かつ一日平均75km以上走ること)の2つから出走タイプを選ぶことができる。またパーマネントといって、自分で出走日時を決めることもできる。

――ブルベ参加者の完走率はどれくらいですか?

天候が良くてスタンダードなコースなら100%の時もあります。天候の影響も大きくて、悪くなると30%くらいの場合もあります。元から天候が悪いってわかってる場合は、それを覚悟で走りに来る猛者ばかりなので、逆に完走率が高くなることもあります(笑)。

インタビュー中も参加者が続々と帰ってきた。片山氏はルートの問い合わせがあった際にも、地図も見ずに的確に対応している姿が印象的だった。

自分の好みやレベルに合わせてルートを選べるので、どんな方でも楽しめるのがブルベの魅力だと感じた。コースにもそれぞれのこだわりが詰まっているので全く同じコースにならないのも飽きない魅力だと思う。
年間でかなりの数のブルベを運営するオダックス近畿だが、なぜブルベを日本で運営することにしたのか。ブルベ団体を立ち上げたきっかけを伺った。

――ブルベを主催する団体を立ち上げたきっかけを教えてください。

ブルベはフランス発祥のスポーツです。それが世界各国にブランチの団体が出来て、それぞれで主催されるようになっていきました。日本では、日本人がPBPの出場権を獲得できるようにするために立ち上がった団体がルーツになっています。

――全国に主催団体がありますよね?

そうですね。ほとんどの国がそうなんですけど、日本でもオダックス・ジャパンいう組織が日本国内の団体を取りまとめていて、各地でブルべを主催する団体が存在します。主に近畿エリアでの開催を行っているのが「オダックス近畿」という団体になります。

フランスで行われるPBP。100年以上の歴史があるこのイベントは長距離サイクリストの憧れで約6,000人が参加する。

――オダックス近畿の活動内容を教えてください。

もともとは大阪発着のコースを主催していましたが、神戸や、京都で主催したいという参加者が出てきて、主催者とコースどんどん増えていったという感じです。近畿の今の主催者はユニークな人が多くて、コース設定がキツかったり、バラエティーに富んでいて面白いですよ。コースを主催してみたいという熱い思いを実現しているがオダックス近畿の特徴かなと思います。

――年間どれくらい開催されているんですか?

近畿では年間100本くらいです。そのクラブで開催した大会の総距離によってアワードがあるんですが、近畿は世界トップを3年連続で獲得してます。

――すごいですね!

変わってますよね(笑)。だから一つの国のブルベより多かったりします。でもそのスタイルがいいって賛同してくれている人もいます。今では四国や九州、東北や東京発のブルベを開催するメンバーもいます。

――参加メンバーも増えているんですか?

ブルベに参加して楽しいと思った人がスタッフとして運営に関わりたいって増えていますね。主催者によって引くコースに個性が出るので、ファンが付いたりもします。ブルベは基本的にボランティアで運営するんですが、和歌山や福井にも開催が広がっています。

――全てボランティアなんですね。

はい。基本的には自転車が好きで集まっているので、参加費はコースの試走に行くガソリン代だったり、ゴール受付を借りる費用だったりの必要最低限の経費で運営しています。
参加者が運営に関われるのがブルベの特徴で、面白さでもあるともいます。だからこそ、新しいコースを運営してみたいって人が参加してくれますし、近畿はそれを受け入れる土壌が出来ています。

SR600(Super Randonnees)は、累積標高10,000m以上の山岳ルートにチャレンジするブルベイベント。

――コロナ禍の影響はありましたか?

自治体の指示に従うことを原則としています。ですので、これまではコース上に緊急事態宣言が発令されたときは中止や延期にしていました。あとは、感染者が増えているときは、参加者が自分の好きな出走時間と日程を選べる「N2BRM(ニューノーマルブルベ)」という取り組みも始めました。そうすることで参加者が分散して、個人サイクリングとブルベの合体のような感じで、接触が減るので感染リスクも少なくなります。
ただデメリットもあって、知らない人同士でたまたまペースが合って、一緒に走って会話して、そこからブルベ仲間の輪が広がることもあるので、そういうのがないのが寂しいですね。ゴール受付での自転車談義ができないのも残念です。

――オダックス近畿の今後の目標はありますか?

世界各地でブルべを運営する団体は増えていますが、開催数に恥じぬよう参加者に「楽しい!」と思ってもらえるようなコースを提供し続けたいです。

取材時には「日本海と瀬戸内海の二つの海を堪能する600km」のコースと、悪路・激坂・未舗装・超級山岳などあらゆる要素を飲み込んだ【VALE TUDO】と題された「VALE TUDO Stage.4 超山岳級 600km」の2コースが開催されていた。コースによってレベルも違い、参加者の好みに合わせてコースを選べる形だった。

神戸の西区からの参加。雑誌の記事をきっかけに、30回以上参加している。
参加者には女性も多い。600kmのコースを走り切ってクタクタになりながらも撮影に応じていただいた。

オダックス近畿のオフィシャルサイトではブルベ開催情報を掲載している。基本的なルールを守れば、20歳以上なら誰でも参加可能だ。コースも難易度別に設定されているので、ハードなコースを完走を目指してチャレンジするのもよし、観光がてら知り合い同士で参加するのも良い。地域ごとに主催団体があるので、興味がある方はそちらをご覧いただきたい。

■オダックス近畿 オフィシャルサイト

■オダックス・ジャパン オフィシャルサイト