魯山人ブランドとして安心・安全な食材や商品開発を行い、アートや音楽、食イベントの運営、環境保全活動も行う京都魯山人倶楽部。北大路魯山人家とゆかりが深く、「もし魯山人さんがこの世に生きていたら」というコンセプトで、日本の魅力を日常生活に取り入れた企画を国内外に発信している。

そこには、さまざまなジャンルのメンバーが所属し、また各界のプロフェッショナルや企業・自治体ともコラボレーションして幅広い活動を行っている。

そんな京都魯山人倶楽部の活動と自転車との関わりについて運営事務局代表の野渕氏に伺った。

「生卵を食べれなかった人から、人生で初めて卵かけご飯できましたっていう連絡をもらいました」

――魯山人倶楽部は、どういった活動をされていますか?

食と農業と芸術を取り入れ、健康や環境保全への繋がりをコンセプトに企画・開発に取り組んでいます。魯山人が愛した食文化や考え方を基にした商品づくりや、芸術家でもあった魯山人にちなんで芸術文化の振興を目指した企画なども行っています。近年は、和歌山県の醤油メーカーとコラボレーションして有機農法や伝統的な作り方にこだわった醤油を作りました。

――醤油作りもされているんですね。

魯山人ブランドとして食品を展開していて、魯山人醤油は湯浅醤油さんに製造をお願いしています。美食家だった魯山人の考えを継承して素材や製法にもこだわっています。魯山人醤油は普通の醤油に比べかなり長い、8ヶ月かけて醸造します。そのため年間2万本しか作れないんですが、今は口コミで評判になって海外でも愛用していただいています。

――海外でも人気なんですね。

ヨーロッパでも高い評価を得ています。海外のシェフはサラダやスープだけでなく、アイスクリームにかけたり、チョコレートに入れたり、日本人では発想できない使い方をしてくれてます。

――日本人とは醤油への感覚も違うんですね。

自転車選手のアルベルト・コンタドール※1が日本に遊びに来たときに、和歌山をサイクリングして湯浅醤油さんにも寄りました。ワインの作り方と同じだと感銘され、社長からお土産に醤油をプレゼントしたそうです。湯浅醤油さんの自転車ポートには今でもコンタドールのサインを飾ってますよ。

※1スペインの元自転車競技ロードレース選手。ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝を勝ち取り、2008年に史上5人目となるグランツール完全制覇を成し遂げた。

コンタドールの来訪以来、ソフトクリームに醤油を垂らすのが話題となりサイクリストのお客さんが増えている。
コンタドールのサインは大切に飾られている。

――北大路魯山人との関係を教えてください。

私自身、もともと安全で栄養価の高いミネラル卵の開発・販売を行っていました。その開発関係者の紹介で、北大路魯山人さんの実娘の方と、“きもの魯山人”ブランドで西陣織をされていた、きもの作家の松岡淑朗さんにお会いできたのがきっかけです。その方たちに卵を大変気に入っていただき、魯山人ブランドで販売してはどうかという提案を受けて、きものを含めた魯山人ブランドを扱う法人を設立しました。

――魯山人と卵は繋がりがあるんですか?

魯山人は美食家としても知られていて、食へのこだわりがすごい人でした。食べるだけでなく、自ら調理を行い、食事に合う器を作り、書や彫刻を作ったりとマルチな才能を活かし、その道を厳しく追求されて現代の和食文化と芸術を確立させた一人です。一方で、一家団欒の食事を大切にする面もあり、「美味しいものではなく美味しく食べる」という言葉も残されています。私の扱っていた卵が安全・安心で栄養価の高い国産素材を使ったものだったので、魯山人の「食」の考え方の基本に合っていたようです。また魯山人が日本の国民食“卵かけ御飯”が好物だったのも、共感していただいた理由のようでした。

――食品の安全性にはこだわってらっしゃるんですね。

そうですね。私が扱いだした1990年代後半は、アメリカの企業で遺伝子組み換え食品の開発が急速に進み、食品の人体や環境への安全性が叫ばれ始めていました。また国内でも農薬や食品添加物などの危険性について声が上がり出した時期です。そのような中で、これからは環境に優しく、健康で安全な食品や企業活動が重要視されると考え、現在の魯山人卵につながる安全で栄養価の高いミネラル卵の開発を始めました。

――極上の卵かけご飯とはどういったものですか?

魯山人生誕記念に「卵かけご飯の会」を有志数名と発起したのが始まりです。魯山人が提唱していた卵かけご飯の作り方を元に、魯山人醤油と魯山人卵、魯山人が通った銀座の寿司屋さんで使っている海苔を使った卵かけご飯です。「料理の真髄は水」という魯山人の言葉にのっとり水にもこだわりました。貴船・鞍馬流域から汲んだものを炊飯に使います。器も魯山人の焼いた器や戦国時代に使われていた歴史的価値のある器など、大変貴重なものを用意していただきました。生卵が苦手で食べれなかった人から、人生で初めて卵かけご飯を食べることができたという連絡をもらうくらい評判になりました。

――美味しい卵かけご飯を作るコツはありますか?

卵を人肌くらいに温めてから、あつあつのご飯にかけると濃厚な醤油と相まって絶品です。卵をちょうどいい温度にするために、手の中で30分間温める方もいますよ(笑)。

――本マガジンはさまざまな業界の自転車人を取り上げています。野渕さんの自転車との関わりを教えてください。

私自身、学生時代から自転車レースに関わっていました。それが卵のご縁がきっかけで、自転車や車椅子の振動吸収装置を研究開発している企業に呼ばれ、開発プロジェクトに加わりました。当初、開発された振動吸収システムの試作機は、自転車レースのパリ〜ルーベ※2でCARRERA(カレラ)のチームバイクに使われました。当時はまだクロモリやアルミバイクが主流で、システム自体、荒削りで独特なデザインのものでした。その後、ブリヂストンサイクルさんなどにも協力いただき、改良版がヨーロッパのプロロードレースやトライアスロンで使われ、それをホンダグループの方が偶然見つけて協働依頼のご連絡をいただきました。

※2 フランスのパリからルーベまでの石畳を含む約260kmを走る、過酷な自転車ロードレース。

――本田技研が自転車のサスペンションですか?

最初はオートバイのフロントフォークとして研究されていたものだったので、興味を持っていただきました。その後も、さまざまなプロ選手にも協力していただき開発を進めました。

プロトタイプのエアロスウィングシステムを搭載した自転車に乗るルック・ヴァン・リルデ選手

――どういったシステムですか?

従来の上下に動き振動や衝撃を吸収するサスペンションではなく、水平・後方へ開放するようなイメージで開発しました。目線や車体の上下振動を抑え、推進力をほぼ減衰することなく衝撃を後方に逃すことで、車体の挙動を抑えてスピードを落とさず、空力効果も高めるシステムになっています。ブレーキ操作によってはコーナリングや雨天でのスリップ抑制、落車抑制機能も得られます。

――その後、どのように活用されましたか?

オートバイや飛行機などへの応用が計画され、まずは電動折り畳み自転車やロードバイク用としてデータの取得が続けられました。またトレーニングバイクとして、MotoGPやF1レーサーにも渡されました。

最近では、英国王室のジュエリーデザインをされていて、グッドデザイン賞も受賞しているアーティストのJames Kawada氏が、2019年に行われたパリのジャパンエキスポへ出展した環境アートバイクにも使用されています。

Aero Swing Systemのフォークを取り付けたProject Prova による試作機を手にする野渕氏

――海外の方とのコラボも多いんですね。

Kawada氏には、日本の伝統的な神馬装飾にインスピレーションを受けたバイクのデザインもしていただきました。伊勢神宮美術館所蔵の神馬を参考に、京都で自転車の製造・販売をしている「VIGORE」とコラボしてデザインを完成させています。日本の伝統的なデザインやカラーは海外でとても評価が高いです。

Kawada氏が手がけたアートペイント。伊勢神宮に正式に手紙を送り、神馬装飾のデザインの使用許可を得た。(写真は試作機)

――これからチャレンジしてみたいことはありますか?

コロナ禍によって、生活環境も大きく変わっていて、これからは安心、安全な生活や環境の保全、生命の保護などにより注目が集まると思います。日本の健康生活・文化を見直し、さまざまな分野の方とコラボレーションを展開して可能性を追求していけるポテンシャルが日本文化にはあります。世界中の文化を吸収・融合しつつ日本の文化や生活・思想を見直し、世界に展開していきたいと思います。

京都魯山人倶楽部オフィシャルサイト
振動吸収装置開発オフィシャルサイト(英語のみ)