バイシクルメッセンジャーは「1日に最も自転車に乗っている時間が長い仕事」と言っても過言ではないだろう。

ある説では1970年代にアメリカ・ニューヨークで誕生し、その後北米〜ヨーロッパの都市へと次々に派生、日本では1989年東京でごく数人からスタートしたとされている。もちろん、従事する人口の増減はあれど現在でも先進国の主要都市にはほぼ彼らが存在する。

今となってはよく混同されがちなのは、東京をはじめとする大都市の街の中で、コロナ以降に急激に見かけることが増えた自転車デリバリーサービス。スマートフォンを自転車に固定し、四角いデリバッグを背負った「配達パートナー」と呼ばれる彼らを、昼下がりに東京の路上を歩いていて、もはや見かけない日はない。

しかし、同じ街の道路上で、同じように「自転車で物を運ぶ」ことを生業としながら、かたやディスパッチャーと呼ばれるいわば司令塔のような立場の人間から無線で飛んでくる指示を、頭に描いた道路地図を広げながら正確にこなし、時には複数人のメッセンジャーたちが有機的かつ組織的に連携し、チームとしての配達効率を上げることを目的とする彼らとは、やはりどこか似て非なるものがあるように思う。

なにより、ともすれば3Kな仕事とも取られるいわば「肉体労働の典型例の一つ」である業務内容の一方で、「メッセンジャーカルチャー」とも言われる、従事する若者たち独自の文化や価値観との結びつきによって、どこか華やかで「憧れの職業」ともされるという二極性を持っており、全盛期である2000年代後半にはカリスマメッセンジャーと言われるような、光を放つ人間たちが確かに存在したのも事実。

他のカウンターカルチャーとも共通するような価値観や文化的側面も見え隠れするその存在感ゆえに、筆者含め30オーバーな自転車乗りにとっては少なからず影響を受けている人間は少なくないはずだ。しかし、時代は変わって、もちろん当のメッセンジャーたちもやはり日々進化し変わり続けている。

精神的にも体力的にもハードな仕事である故に、決して離職率が低いとも言えない職業ではあるが、今回は全盛期とされる2000年代後半から現在に至るまで、第一線で路上を走る経験を積んだ2名のメッセンジャーにQ & Aを行い、その知られざる生態の一部を自分なりにお伝えできればと思う。

1人目はメッセンジャー業の傍ら、現在はシクロクロスレースをはじめとするイベント企画を中心に活躍するMATUDO氏。

*同シリーズ2人目、SANGTAE氏のインタビューはこちらより。

手前味噌にはなるが、いずれもプロフェッショナルな2名だけあって、この職業が持つ前述の「二極性」のようなものが、「アンダーグラウンドで自立した精神性と、それでいて積極的に社会に関わろうとする社会性」という本人たちのマインドに変わって、そのまま昇華されているのだなと実感した。

メッセンジャーネーム:マツド (MATUDO)

出身地:茨城県

生業:スポーツイベント企画制作、メッセンジャー、モデル

好きな数字:440

自転車を始めた年:2008年5月

メッセンジャーを始めた年:2009年1月

影響を受けたメッセンジャー:SINO

アガるエリア:東京の虎ノ門

ベスト昼メシ(≒ 仕事中のご飯で好きなもの):通常:梅オニギリ、ご褒美:カップラーメン

ベスト夜メシ(≒ 仕事終わりのご飯で好きなもの):ビール

仕事中に気をつけていること:安全確認と効率化

仕事中のラッキー:新しい仕事の問い合わせ

トラウマ:感情的な幅寄せ

メッセンジャーあるある:仕事中に本名で呼ばれると反応できない。気づいたら自転車がどんどん増えてしまう。晴れ用の自転車と、雨用の自転車など。。。

危機の交わし方:危険なパターンは車が多いのですが、その時はフロントホイールの動きを見ながら危険回避しています。

失敗して良かったこと:後輩にも失敗談を共有できて全体としてのクオリティ向上に繋げられ財産になった。

だからこの仕事がやめられない:お客さんの笑顔

愛車遍歴(自転車以外も可):ハンズの吊るしフレーム → アンカー(ピスト) → ナルシマアルミロードフレーム → サムソン(ピスト) → トールバイク → FUJI(トラックプロ) → FUJIフェザー → FUJIヴェノム → FUJI(トラック1.0) → FUJIアルタミラ → FUJI-cross1.1 → チャンピオンシステム-ジアン → VIVALO-pal → ダホンSpeed P8 → REVEN-CROW → ローバーミニクーパー。
色んな自転車乗りましたが、印象に残っているフレームは、トラック1.0とアルタミラですね。この2つは色んな所へ旅することが出来て気に入ってました。また乗りたいです。

自転車へのこだわり:汎用性の高い製品を採用すること。メッセンジャー時壊れたら直ぐに治せるように。

自転車以外へのこだわり:釣りをする時間を如何にして捻出するか。

15年前の目標:映画制作

現在の目標:映画制作

毎日欠かさずやること:空気圧チェック

-一問一答ありがとうございます!ここからは答えの中でいくつか気になったことを聞きたいです。
影響を受けたメッセンジャーSINOさんについて。メッセンジャーでもない自分でも耳にすることが多く、すごく影響力のある方ですよね?MATUDOさんが具体的にどういったところを影響受けたなどがありますか?

メッセンジャーを始めた当時、CMWC (*1) TOKYOを前にメッセンジャー業界全体が盛り上がってきていました。 そんな活気の中、何が話題の中心になるかというと「つまり誰が速いの!?」ということで、その後には大抵「SINO」って返ってくる。 それぐらい彼は人を惹きつける人間なんだなと。 もちろん前年のCMWCでチャンピオンになっていたのは知っていたけど、自分も所属してるチームでは速いと自負もあったので、それなら勝負してみたいなと、自然とアーレーキャット (*2) に足が向いてましたね。どうにか勝ちたいなと隔週くらいで自分もアーレーキャットを企画して、野良レースに明け暮れてました。同じように、勝負好きは集まる所に集まっていたと思います 笑。

*1 CMWC
Cycle Messenger World Championshipsの略。サイクルメッセンジャーの世界大会。年に一度、世界中から有志のメッセンジャーが開催都市に集結し、誰が最も強く、賢く、速い、最高のメッセンジャーかを競い合う。メッセンジャーカルチャーが隆盛を極めたともいえる2009年には東京で開催。「模擬デリバリーレース」ともいえるメインレースを中心として、メッセンジャーおよび自転車の文化を、広く知ることのできる場としても機能している。開催される競技はすべて、International Federation of Bike Messengers Associations(IFBMA)によるレギュレーションに則ったもので、「競技は封鎖したコース内で実施する」「すべての参加者は保険加入が義務」など、十分な安全配慮のもと行われる。

*2 アーレーキャット
決められたチェックポイントを通ってゴールを目指し、そのタイムを競う、いわばオリエンテーリングの要素もあるストリートレース。主催者が定めるルールによって内容に個性があるのも特徴。

-あと、虎ノ門がアガるエリアというのは意外です。走りやすかったりするのでしょうか?
自分の脚次第で速く走ったり出来るので楽しいです。「信号が繋がる」っていうメッセンジャー的なワードがあります。

-仕事中は本名で呼ばれると違和感とのことですが、基本的に仕事上では本名を語ることが少ない?
この仕事では、「メッセンジャーネーム」という、普段の自分とは違う新たな呼称を授かる(大抵は上司から)のが特徴でして。中には自分含め、必ずしも本名とは関係なく脈絡のない名前を背負う人も多くいます 笑。
「新たな自分を演じる」じゃないけれど、危険な場面に出会うことも少なくない都会の路上を、自動車たちと共に渡り歩くために、っていうのがあるんだと思います。
なので、みんなには基本MATUDOって呼んでもらうことが多いですね。

-特徴的だけど、すごく素敵な文化ですね。しかしやはり車との危険な機会はあるんですね…車のフロントホイールの動きを読むのは素人にはなかなか…笑。ちなみに「道路上での車との関係性」は、メッセンジャーだけでなく多くのサイクリストの悩みの一つとしてあるような気もします。どうやれば自転車と車とが仲良くなれるとおもいますか?
先読みした思いやりですかね?自分も車は運転しますし、置き換えて考えたりして、なるべく止まらず円滑に推進するように行動すれば、事故のない日が来るかもしれません。

-愛車遍歴にトールバイクやローバーミニが紛れていることから、そもそも乗り物好きなことと、あと、釣りが好きなのはなんとなく伝わりました 笑。ちなみに、夢が映画制作とのことですが好きなジャンルがあるのでしょうか?自転車関係の映画を作りたい?
ウッディーアレン監督「マンハッタン」ですね。ラブコメが好きなんですよ。人間の営みが好きなので。乗り物の映画も作れるなら作ってみたいですね!

-ちなみに、現在メッセンジャーとは別で生業とされている「スポーツイベント企画制作」に関して、ディレクションされているイベントなどはありますか?
今年の12月11日に、初主催の「野田シクロクロス」があります。千葉県野田市にある福田の森(通称)にて開催するのですが、都心から車で45分でアクセスできる好立地ですし、日本シクロクロス主催者競会(AJOCC)のルールに則ったシクロクロスレースなので、安心して気軽に参加いただけると思います。ぜひみなさん参加してほしいですね!

現在はメッセンジャー業の傍ら、シクロクロスのイベントをはじめとして、自転車だけでなく様々なスポーツイベントの運営に携わる。特に、彼自身も熱心なシクロクロッサーゆえの、バラエティに富んだコースづくりには定評がある。

-なるほど。では最後に一言お願いします。
自分は自転車に乗ることで様々なコミュニティに出会う事ができました。
自転車に乗ってメッセンジャーを始めたことで、嘘みたいに世界中のメッセンジャーと触れ合い、新しい刺激をたくさん受けて。
今では他の仕事もやっていて、デリバリーの数自体は減っちゃってるけど、やっぱりメッセンジャーと言う仕事が楽しいんですよね。もっというと、ベースはやっぱり仲間と自転車で乗りに行くだけで楽しい。
もし、自転車に興味を持っていてこれを読んでくれているなら、一人で楽しむ自転車もいいけど、メッセンジャーでもいいしレースでもいいし、ぜひいろんなコミュニティにも身を置いてみてほしいなと。一人で楽しむ自転車ももちろん楽しいけど、きっとそれだけで世界がぐっと広がっていくはずなんで…。
自転車が繋げてくれる未来はきっと明るいですよ!

MATUDO マツド (根本製作所)

20代前半で舞台演出を学びつつ、日銭稼ぎとしてメッセンジャー業を開始。メッセンジャーカルチャーにのめり込み、CMWC参戦の為に世界を転戦。その後はシクロクロスレースに軸を移し、競技に参戦。チャンピオンシステムジャパンのアベキ氏に誘いを受け、シクロクロスレースのイベント制作に参加するように。レースイベント制作の面白さを知り、自身の舞台演出/総合演出の経験も交えた独自のノウハウを構築していく。その後、シクロクロスの主催者競技団体(AJOCC)の正会員を経て、現在は理事を務める。
その他、2021年に開催された大規模国際スポーツ大会においては、ロードレース競技のエクイップメントスーパーバイザーを担うなど、ジャンルを超えた活躍をしており、現在ではシクロクロス競技のみならずロードレース競技、マウンテンバイク競技の国際大会に企画制作および演出アドバイザーとして参画している。

根本製作所
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