しまなみ海道サイクリングロードを尾道側から走り出して向島の次、因島にその「自転車神社」はある。サイクリストの聖地「しまなみ海道」に位置することもあり神社の知名度は高いが、立地の恩恵にあずかるだけだけでなく独自の活動にも積極的に取り組まれている。古くから地域や参拝者に支えられてきたことに感謝し、社会に貢献する。現代社会の中で地域に根ざした神社がどうあるべきかを考え、地元行政や地域の人々と一緒に活動を広げている。

今回は、日本唯一の自転車神社、大山神社で企画や広報として尽力されている巻幡優希さんに、神社と社会の関わりや、今後の取り組みについて伺った。

官民一体のもてなしから、次第に自転車神社に

LINZINE:自転車神社は多くのサイクリストに知られていますが、改めて大山神社の由来から教えてください。

巻幡さん:大山神社は、伊予国大三島の大山祇神社より宝亀四年(西暦773年)にご分霊を勧請した因島最古の神社で、しまなみ街道 尾道市因島の瀬戸内の島々を見渡す小高い丘に鎮座しております。主祭神は大山積大神さまで、山の神様ですので土地やその上に立つ建物などの構造物に御神徳があります。また大山積大神さまには和多志大神さまという称名があります。人流・物流の要所であった瀬戸内にあって、羅針盤が渡来する前、航海の指標は大きな山など自然地形でした。(重ね石や岬の大岩に信仰があるのが分かりやすいですね!)そこから山の神様が人と人・人と物・物と物を結ぶ神様として信仰を受け、和多志大神さまという称名になったと言われています。

手前の車体はTernのVEKTRON N8。eBikeは脚力に自信のない方でもしまなみ海道サイクリングロードのアップダウンを楽に走ることができる。

巻幡さん:余談ですが、当神社の石段55段は、江戸の埋め立て以前は船が石段に直接ついていたので、雁木と呼ばれています。尾道文化遺産の曳船神事として、曳船が石段を登って境内にてお祓を受けるという神事が残っております。これも分かりやすく言えば、交通安全のお祓いですね。時代によって手段が変わるだけで交通安全という神様の御神徳は変わっていないと思っています。

江戸の埋め立て以前は船が直接ついていた55段の石段。現在もこの石段を曳船が登る曳船神事が残り、尾道文化遺産に指定されている。

LINZINE:石段に船が直接接岸していたのは知りませんでした。なるほど。曳船神事は動画を拝見して、その迫力に圧倒されました。自転車神社はもともとこの交通の守り神様をお祀りしているところからスタートされているのですね。

巻幡さん:自転車神社と呼んでいただける様になって15年くらいかと思います。しまなみ海道が全通し、官民一体となってサイクリストに親切な地域にと言う事で、サイクルオアシスを沿線に設置するお話を頂きご協力させて頂きました。コロナ禍以前は、おしぼりとお茶を無料で提供し、境内で休んで頂いたりしながらお参りして頂く形で、次第に「あの神社自転車乗りに親切だよ!」とSNSで拡散して頂いて、和多志大神さまにしまなみライドの交通安全をお祈りされる方が増えて自転車神社と呼んでいただける様になりました。

御守や清め塩、自転車絵馬などがセットになった、自転車のお祓いの様子。自転車を楽しむ際の交通安全について改めて考える機会にも。

LINZINE:官民一体となってサイクリストをもてなすという発想は素晴らしいですね。いくらサイクルロードを整備しても、地域の方々に受け入れられていないと楽しさ半減ですからね。自転車神社については確かにSNSで良い評判を見聞きしていましたが、そういう思いがあったのですね。ところで巻幡さんもサイクリングとかされますか。

巻幡さん:自転車神社をその様に思って頂けて嬉しく励みになります!私個人、かなりのインドア派で基本移動は車。ですが、時候の良い時にはエントリーのロードバイクで因島をポタリングします。初夏の蜜柑の花の香りの中や、秋の海の清々しさは在住の私でも美しいなぁと感じます。

巻幡さんの好きな風景の一つ。大山トンネルの手前から見た生口島、岩城島方面。

LINZINE:あぁ〜分かります!そういった美しさが私にとっては瀬戸内の島々の最大の魅力です。

巻幡さん:あとは尾道市街地(海岸沿い)での補給過多なポタリング。歩いても良いんですが、行きたいお店が彼方此方にあると自転車くらいが楽な距離感だなぁと思います。少しは乗るので、激坂ヒルクライマーやブルベな方々には敬意を、『ろんぐらいだぁすとーりーず!』の三宅先生の繊細な背景や自転車描写が本物みたいとか、気付くことが出来てラッキーだなと思っています。サイクリングって、いつでもオートクチュール。自分やメンツ、その時の状況に合わせて色んな楽しみ方が出来て良いですよね!

LINZINE:巻幡さんが大山神社で働かれるようになったきっかけや、お仕事の内容について教えてください。

巻幡さん:今は企画や広報、労務管理や給与などをしております。私は大山神社で育ちました。小さな頃は真面目だったので?お正月やお祭りなど繁忙期でなくてもお手伝いをしていたと思います。就職後は病院で作業療法士としてリハビリに携わっておりましたが、結婚を期にこちらに帰ってきて再度神社に出入りする様に。神社について一度外に出て改めてみた時に、一般社会と違う部分があるんだなぁと思ったので、ここは改善できる部分があるのでは?と思ったところを父である宮司と喧嘩しながら(笑)。

巻幡さん:元々、父は神職の居なくなった近隣の神社さんを兼務させて頂いたり、地域に文化を残していくということに重きを置いてきました。その中で結果として神社の在り方が変化してきた部分があると思います。文化と伝統を守ることは、神社にとって最も大切な務めです。でも現代において、神社、勿論職員や氏子さん達も資本主義やITと切り離しては成り立たないですし、より皆様に分かりやすく伝える必要があると思っているので、乖離が起きない程度に調整するのが私の役割かなと考えています。

支えられてきたことに感謝し、出来ることをする

LINZINE:大山神社の公式サイトで社会貢献事業のページを拝見しました。世界遺産級の有名な神社でもこういったページを設けているところはあまり無いように思います。巻幡さんの考える、神社と社会貢献の関係について教えてください。

巻幡さん:参拝者さんにとって神社ってどんな場所だと想像しますか? 新年におみくじを引いたり御守り受けたり、七五三のお参りしたり? 皆さんそんな事意識されてないとは思うのですがそれらは御家族など大切な存在を思っている気持ちを「神様に伝える・或いは感謝すること」で具現化出来る手段のバリエーションであると思います。

LINZINE:なるほど、確かに仰るとおりですね、よく分かります。

巻幡さん:では神社は社会の中でどんな存在か考えた時、神社を守って行く為に職員皆日々真摯に務めておりますが、古くから地域や参拝者さんに支えられて守られてきたから、長年その存在を守ってこられたのだと思います。上記の様に皆さまの大切な事を託す場所だから守って頂けたのだと。ですから、本当は神社から社会(皆さま)に貢献と言うのは若干烏滸がましいかもしれません。宮司も支えられてきたことに感謝しているから、何か出来ることがないか?と考えて社会貢献に辿り着いたのだと思います。

写真は、大山神社で夏季のみ授与している「願い風鈴」。神社神道では、神事で祓い清めるために鈴を使う。鈴自体に厄除開運の意味があり、自分の願い事を短冊に記入して奉納する(持ち帰ることも可能)。

巻幡さん:つまり大山神社は、支えられている事に感謝する気持ちを「社会貢献」を通して具現化しているのです。社会貢献は具現化の手段のバリエーションの一つに過ぎませんので、きっと他の神社さんはまた違う手段を取られているんだろうなと思います。 文字通り公益法人だからでも良いんですが、そんな風に考えて出来る事をさせて頂けたらと思っています。

LINZINE:大山神社の社会貢献事業として、自転車に関する様々な取り組みが紹介されています。それぞれの背景など教えてください。

巻幡さん:2012年に境内にサイクルオアシスを開設させて頂いてから、おしぼりとお茶の無料提供をさせていただいております(現在は感染対策の為、一時的に休止しております)。その後、因島内でもサイクリングを安全に楽しんでもらおうと地域のサイクリストさんや企業と共に「しまなみサイクリングブリッジ」を発足し、因島大橋・生口橋の自転車専用アプローチ道の清掃を2014年から年4回実施しております。落葉樹が殆どのしまなみ海道では、落ち葉や元気の良い雑草が、折角の景観を損なう事だけではなく滑りやすくなり危険です。初期からご協力頂ける方々と細々とですが続けておりますと、本四高速の職員さん達も御参加くださる様になりました。

自転車専用アプローチ道の清掃風景。サイクリストの聖地「しまなみ海道」は地域の方々の努力により保たれている。

巻幡さん:また県観光課などで構成される「しまなみ海道自転車利用促進協議会」からお話を頂戴し、寄付型の委託販売や自販機の設置などをさせて頂いております。現在しまなみ全線を渡るのに通常500円かかる自転車道の料金を無料としておりますが、その財源は愛媛県と広島県で折半し、企業の協賛金などで賄われています。それだけでは不十分ですので、サイクリング漫画でしまなみ海道や当神社を掲載してくれている『ろんぐらいだぁすとーりーず!』とコラボしたサイクリングウェアやラッピング自販機などで、皆様に楽しんで頂きながら尚且つしまなみ無料化の財源になるように協議会が企画してくれています。ここ数年は商工会議所などと、ブルーラインから離れた因島南部やゆめしま海道へ足を運んでもらえる様に「因島サイクルツーリズム振興協議会」を発足させ、グラベルロードの整備や楽しみ方を提案したりしております。その他、地元プロチームの後援や、サイクリングしまなみなどイベントの際のご協力など出来る範囲でさせて頂いております。

LINZINE:行動力に驚かされました。自転車業界でもなかなかそのように活動できていない企業がほとんどだと思います。また大山神社では、自転車以外にも取り組まれている社会貢献があるようですので、教えてください。

巻幡さん:ご縁を頂いて坂上どうぶつ王国の最初の犬猫さんのお家の地鎮祭に行かせていただいて以来、職員にも保護猫を飼っている者がおりましたので何か出来ないかなぁと漠然と思っていましたが、数年具体例が浮かばないままでした。2020年我が家に保護猫を迎えるにあたって、動物たちの現状や保護活動をされている方々の過酷な現状を初めて体感して、神社として気軽に保護活動自体に手を出す事は逆に倫理的にもマンパワー的にも出来ないなと思いました。そこで先ず一歩を踏み出す為に、自転車の寄付型自販機の様に継続可能な形の寄付型の御守りを企画しました。御守りは大切な人や自分の為に受けるものですが、それがそのまま動物福祉(アニマルウェルフェア)の向上にも繋がるので、気持ちや幸せの連鎖になってくれると信じています。

継続可能なアニマルウェルフェアへの取り組みの一つとしてできた、寄付型の御守。様々な猫柄、犬種がデザインされた猫柄御守と犬御守が用意されている。諸事情でで参拝が叶わない場合はこちらから申し込める。

巻幡さん:今後は、地元の保護活動をされている方々と協力して譲渡会など神社でアニマルウェルフェアの向上に繋がる企画が出来たらと思っています。寄付先のアニマルドネーションさんが作って下さった詳細ページがありますので、ご興味のある方はご覧いただけたら幸いです。残念ながら個人も団体も、全ての不幸な出来事に対処する事は出来ません。ですから、身近で気付かせてもらえた事から、継続が出来る範囲の事をして行きたいと思っています。

身近に思われる神社でありたい

LINZINE:巻幡さんにとってここ因島ってどんな場所ですか。またその中で自身が今後どうしていきたいかなどもお聞かせください。

巻幡さん:因島について改めて聞かれると、意識して考えた事なかったなぁと思います。好きとか嫌いとか通り越して、ただ初夏のみかんの花の香りと海の煌めきと共に、山の様なずっしりとした存在感でずっとそこにあります。どうこう出来る程、私に力が有るとは思えないんですが、自分の手の届く範囲の事くらいは、守る為に知ってもらう為に心血を注ごうと思います。今も商工会議所さん始め沢山の地元の人達が、因島を盛り上げて行こうと尽力されています。皆さんと関わっていると何とも清々しい気持ちになって、心洗われます。先ずは私に関わってくれた人達が少しでも楽しかったり嬉しかったりしてもらえる様に出来たらなと思います。

LINZINE:因島の中で巻幡さんの好きな場所を教えてください。観光地以外の個人的に思い入れのあるところもあれば。

巻幡さん:勿論、大山神社、自転車神社! 白滝山五百羅漢。村上水軍!除虫菊の丘。あとは因島の誇る世界的企業、万田発酵さんのカフェ! なんかが思いつきますが、みかんの花の件で頭に浮かんでいる大山トンネルを神社側に抜けた所(多分毎年写真撮っているかも)や、あとは図書館の駐車場から見えるぞうさん公園と海と土生の街並み(昔ぞうさん公園の脇道を通って図書館下の市民会館に徒歩で習い事に行っていたので懐かしい)。

子どもの頃によく遊んだという、ぞうさん公園。
習い事に通う際に通っていた階段は微妙に折れ曲がって雰囲気があり、見下ろすと美しい海が見える。

巻幡さん:神社の中でも二の鳥居から石段を見上げてる位置とか、境内から奥殿のあった大山の方を向く位置とか、稲荷さん横の林とか。ニッチなところが好きです。

LINZINE:今後の大山神社をどうしていきたいですか。また、そのために巻幡さんはどんなことに取り組んでいきたいですか。

巻幡さん:神事は他の家族や職員にお任せして、私は神社が向かう先や業務を他の業界のように時代に適応させ続ける方に取り組んでいこうと思っています。地域や他業界の方との横のつながりも大切にしていきたいと思っています。今はありがたい事に、御参拝くださった方が「どう感じたか」SNSを通じて気軽に知る事が出来ます。またその分励ましの言葉も沢山頂けます。神社のイメージは時代や人それぞれ違うかも知れませんが、誰かを想い信じる気持ちは普遍だと思います。伝統を守ってゆく為に適応しつつ、皆様の身近に思っていただける様な神社であれば嬉しいなと思います。

*協力:大山神社 広島県尾道市因島土生町1424-2
*この記事で紹介している情報は、2022年12月時点の取材に基づいています。