HACCP義務化と飲食店の害虫駆除
2021年6月から、すべての食品等事業者に対し、「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」が完全義務化されました。多くの飲食店経営者にとって、HACCPは難解で面倒なものと感じられるかもしれませんが、これはお客様に安全な食事を提供し、店の信頼性を高めるための極めて重要な仕組みです。そして、このHACCPの考え方において、「害虫駆除」は衛生管理の根幹をなす、非常に重要な要素として位置づけられています。HACCPとは、食品の製造工程における潜在的な危害要因(ハザード)を科学的に分析し、それを管理することで食の安全を確保する手法です。この危害要因には、物理的、化学的、そして「生物的」なものがあり、ゴキブリやネズミ、ハエといった害虫は、まさにこの「生物的危害要因」の筆頭に挙げられます。彼らが病原菌を媒介し、食品を汚染するリスクは、HACCPで管理すべき最重要項目の一つなのです。HACCPの考え方に沿った害虫管理(ペストコントロール)は、単に「虫が出たら駆除する」という事後対応(リアクティブ)ではありません。重要なのは、「害虫の発生を未然に防ぐための管理(プロアクティブ)」を行うことです。具体的には、①害虫の侵入・発生を防ぐための計画を立て、②定期的なモニタリング(生息調査トラップなど)で状況を監視し、③必要に応じて駆除を実施し、④その効果を検証して記録を残し、⑤さらなる改善策を講じる、というPDCAサイクルを回していくことが求められます。こうした計画的な管理と、その実施記録は、店の衛生レベルを証明する客観的な証拠となり、保健所の監査などにも自信を持って対応できるようになります。HACCPは、害虫駆除を科学的で計画的な管理へと進化させるための、強力な羅針盤なのです。